分子ロボティクス夏の学校2021 講義・講習の内容

2021.05.31

7月2日 講義0 イントロダクション

~分子システムデザイン・分子ロボティクス・分子サイバネティクス 

講師 村田 智(東北大学教授)

分子ロボティクスは,一から設計した分子を部品としてロボットと呼べるようなシステムを創り出すことを目的とする新しい学術分野です.本講義では,分子ロボティクスへの導入として,この分野の全体を俯瞰的に紹介します.まず,分子ロボティクスの基本となっているのが分子システムデザインです.これは,DNAやペプチドをはじめとする「配列をもつ高分子」を設計・合成して,さまざまな機能部品や構造をつくりだす技術です.分子ロボティクスはそうした部品を有機的に組み合わせて,システムを創り出す技術を研究する分野で,特に,人工の細胞の中にさまざまな分子部品をいれた細胞型分子ロボットの開発の研究が進んでいます.分子サイバネティクスは,昨年はじまった科研費のプロジェクトで,そうした人工細胞を多数組み合わせて,ある種の学習能力をもったシステムをつくることに挑戦するプロジェクトです.

教科書の読んできてほしいところ:
  DNA分子デザインのすべて:1
  分子ロボティクス概論:序章

7月6日 講義1 分子システムデザインのためのソフトウェア群 

講師 川又 生吹(東北大学助教)

分子システムのデザインを紙とペンだけですべて行うのは無謀です。設計の対象となる分子システムに合わせて、様々なソフトウェアを活用できるようになりましょう。ただし、ソフトウェアと一口に言っても、様々なレベルがあります。例えば、部品となる分子を作成し可視化するツール、部品の性能をシミュレーションするツール、様々な部品を組み合わせた時の挙動を予測するツール、実験の結果を解析するためのツール、などです。また、一般向けのソフトウェアや、研究用の汎用的なツールも、場合によっては生体分子デザインの観点で活用できる場合があります。本講義では、分子デザインに使える可能性のあるソフトウェア群を幅広く紹介します。

教科書の読んできてほしいところ:
  DNA分子デザインのすべて: 61,62,63,64,65,66,67
  分子ロボティクス概論:1.1

7月9日 講習1 NUPACK:核酸配列の解析設計ソフトウェア

講師 ○B.Nixon(東京大学博士学生)牧野 航海(名古屋大学学生)吉野 陸(東北大学学生)

相互作用する一本または複数本の核酸鎖について,平衡状態におけるさまざまな特性を解析し,望ましい特性を持つような塩基配列を設計することができます.

教科書の読んできてほしいところ:
  DNA分子デザインのすべて: 40,43,62,63

7月13日 講義2 構造DNAナノテクノロジー 

講師 葛谷 明紀(関西大学教授)

分子コンピューティングから分子ロボティクスを経て分子サイバネティクスへと至る研究分野の発展は,非天然のDNA分岐構造に基づく「構造DNAナノテクノロジー」の進歩と軌を一にしてきた.DNA二重らせんを太さ2 nmの丸太のように扱って,ナノスケールのいかだや格子を構築する技術として始まった「構造DNAナノテクノロジー」は,2006年のDNAオリガミ法の発明をきっかけに,幅広い研究分野に波及しつつある.本講義では,その基本概念とマイルストーンとなる代表的な研究例を紹介する.

教科書の読んできてほしいところ:
  DNA分子デザインのすべて:3章,特に17,18,19,20,23,26
  分子ロボティクス概論:3章,特に3.1-3.7

7月16日 講習2 caDNAno:DNA オリガミ設計ソフトウェア

講師 ○川又 生吹(東北大学助教)劉 詩韻(東北大学学生)山下 雄大(東北大学学生)

GUIを用いて,さまざまな2次元あるいは3次元形状をもつDNAナノ構造(DNAオリガミ)を設計し,それに必要となる数百本のDNAの塩基配列を決定することができます.

教科書の読んできてほしいところ:
  DNA分子デザインのすべて:64,65
  分子ロボティクス概論:3.1,3.2

7月20日 講義3 DNAコンピューティング 

講師 中茎 隆(九州工業大学教授)

本講義では,DNAコンピューティングの入門的な内容からDNA回路設計の基礎的な内容までをカバーする説明を行う。DNA回路の設計では,DNA分子反応系に酵素反応系を取り入れるか否かで設計思想が分かれるが,本講義では酵素を使わない「酵素フリーのDNAコンピューティング」について主に説明する。「DNA回路を設計すること」とは,「DNA分子反応系のダイナミクスを設計すること」であり,「回路を接続すること」の本質は,「分子を反応させること」である。本講義がきっかけとなり,DNAコンピューティングの楽しさを発見するとともに,その難しさや奥深さについても学んで欲しい。

教科書の読んできてほしいところ:
  DNA分子デザインのすべて:28,29,31,(32),39,42
  分子ロボティクス概論:1.2, 1.3, 1.4, 1.5

7月23日 講習3 Visual DSD:DNA 反応系設計ソフトウェア

講師 ○安部 桂太(東北大学博士学生)緒方 寛(東北大学学生)樋口 剛志(東北大学学生)

鎖置換反応と呼ばれるDNA鎖間の相互作用を組み合わせて,さまざまな動的な反応をウェブ上で設計することができます.

教科書の読んできてほしいところ:
  DNA分子デザインのすべて:29, 30, 31, 67
  分子ロボティクス概論:1.5

7月27日 講義4 DNA酵素反応とその応用,人工核酸,反応速度論 

講師 村山 恵司(名古屋大学助教)・瀧ノ上 正浩(東京工業大学准教授)

DNAに人工的な分子を導入する事で,本来DNAが持ち得ない様々な機能を付加することが可能となる.更に,天然のDNAの骨格部分を非天然構造に置き換えた人工核酸は,その構造に応じて二重鎖形成能が大きく変化する.本講義ではこれら人工核酸の設計と応用例を紹介する.(村山)また,DNAナノテクノロジーを加速する核酸関連酵素の紹介と,酵素反応速度論およびその数理モデルについて基礎から解説する.(瀧ノ上)

教科書の読んできてほしいところ:
  DNA分子デザインのすべて: 45, 46, 47, 48, 49, 50,51,52
  分子ロボティクス概論:5.3, 5.5

7月30日 講習4 CellDesigner:生体反応システム設計ソフトウェア

講師 〇佐藤 岳(慶応義塾大学学生)髙田 咲良(慶応義塾大学学生)中谷 諒(慶応義塾大学学生)

遺伝子調節系などのさまざまな生化学反応ネットワークをシミュレートし,その特性を評価することができます.また,パラメータを網羅的に変更することで,実験によって得られた特性を再現するパラメータを効率的に探索することができます.

8月3日 講義5 ペプチド工学 

講師 松浦 和則(鳥取大学教授)

本講義では,分子ロボットを構成する材料の一つであるα-ヘリックス形成ペプチドや,それらが会合したコイルドコイルペプチド,ならびにβ-シート形成ペプチドからなる繊維状集合体の分子設計・合成方法・機能解析の基礎について解説する.具体的には,アミノ酸配列と二次構造の関係,Fmoc固相法によるペプチド合成,ペプチド鎖同士の連結法,二次構造・三次構造・四次構造の解析方法などについて述べる.また,それらの人工合成ペプチドからなる人工酵素・ナノカプセル・イオンチャネル・薬物デリバリー材料などへの応用についても概説する.

教科書の読んできてほしいところ:
  分子ロボティクス概論: 3.8, 3.9, 4.2

8月6日 講習5 PDB/VMD/Avogadro:分子構造データベース/可視化ツール/分子エディタ

講師 ○高野 史章 ○山﨑 祐大 ○田中 喜基(関西大学修士学生)

PDBは国際的な生体高分子立体構造データベースで,VMDはタンパク質,核酸,脂質二重層などの分子構造のモデリング,可視化,解析のためのソフトウェです.Avogadroはさまざまなプラットフォームで利用できる分子エディタです

教科書の読んできてほしいところ:
  DNA分子デザインのすべて: 66
  分子ロボティクス概論:5.3, 5.5

8月17日 講義6 アクティブマターとその応用 

講師 角五 彰(北海道大学准教授)

 『アクティブマター』とは、化学エネルギーなどを運動エネルギーに変換する機構を内在的に有した物質群です。自発的に運動を発現するという点で、従来の物質群とは一線を画しています。本講義では、特に生体由来のアクティブマター(分子モーター)を取り上げ、その物性や動作原理、動態挙動について解説したいと思います。さらにアクティブマターを分子ロボットの動力源としてどのように活用していくのか、その実例についても紹介したいと思います。

教科書の読んできてほしいところ:
  DNA分子デザインのすべて: 50
  分子ロボティクス概論:4.1,4.2,4.3

8月20日 講習6 Image J:画像解析ソフトウェア講習

講師 〇Marcos K. Masukawa (東京工業大学学生)廣井 総一郎(東京大学学生)西山 晃平(北海道大学学生)

生物系でよく使われるさまざまな画像解析を行うことができる拡張性の高いソフトウェアです.

教科書の読んできてほしいところ:
  DNA分子デザインのすべて: 58

8月24日 講義7 人工細胞工学 

講師 豊田 太郎(東京大学准教授)

人工細胞の中でも、袋状脂質二分子膜で覆われた粒径1マイクロメートル以上のコロイド粒子であるジャイアントベシクルに焦点をあてて,その形成原理と作製法,構造多様性,機能化について解説する。評価方法の概説もタイアップさせ,本講義により,ジャイアントベシクルによる人工細胞実験のはじめの一歩を踏み出せるよう,内容を工夫してお伝えしたい。

  

教科書の読んできてほしいところ:
  DNA分子デザインのすべて: 52
  分子ロボティクス概論:2.1,2.2,6.2

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